東京高等裁判所 昭和28年(う)2015号 判決
被告人 堀内要七
〔抄 録〕
一、他人から仕事を委託されたときは、受託者は委任の本旨に従つてその仕事を処理することを要し、又その仕事を遂行するに必要な金員の寄託を受けた場合には、特段の事情のない限りその金員は委託の趣旨に基き委託者のために保管、使用すべきものであつて、委託の趣旨に反し受託者個人の用途のために擅に流用使用し得べきものでないことは、委任なび寄託の性質上当然である。本件記録に現われた証拠によれば所論の如く被告人はその業態の性質上他人の金員を預つて仕事をするものであり、又適当に見計つて概算金額を預りそのうちから必要に応じて使用しその残金を返済する方法をとる場合もあることは考え得るところであるが、それはあくまで前段説明の範囲内においてのみ理解すべきものであつて、特段の事情のなき限りみだりにその委託の趣旨以外の用途にこれを使用することは到底許されないところである。かくの如く特別の事情のない限り、受託者は刑法第二百五十二条第一項にいう「他人ノ物」を占有するものというべきであるから、受託者がその金員を擅に委託の本旨に反した処分をしたときは、横領罪を構成するものといわなければならない。本件につき按ずるに、原判決が判示第一記載の事実を認定した証拠によれば、被告人は横内富三、丸山正治、弦間徹より各判示日時有限会社設立の登記手続を、又小沢兼三郎より判示日時同人に対する判示所得税を甲府税務署に納入方の委託をそれぞれ受け、判示の如く各委託者より現金又は小切手の交付を受けたこと、被告人の右交付を受けた金員等は各委託者から判示委託の趣旨以外の用途に使用し得べき特別の意思表示を受けた事実のないこと、被告人は右金員等を被告人方の人件費或は事務所費等に擅に流用消費したことを認め得るから、被告人は前段説明の如く刑法第二百五十二条第一項にいう「他人ノ物」を占有するものに該当し、しかもその委託の趣旨に違背した処分をなしたものであること明らかであるから、被告人の前記各所為は横領罪を構成すること明らかであるといわなければならない。所論は被告人は横内との間に分割払の契約が成立した旨主張するが、前記証拠によれば被告人が横内に四万円返済したとき残一万円は被告人方の人件費、事務所費等に費消した事情を告げて、都合のつくまで待つて貰い度いと懇請したことは認められるが、横内がこの申込を承諾し両者の間に所論の如き契約が成立したとの事実はこれを認めることができない。よつて原判決が判示第一記載の各横領行為を認定したのは相当であつて何らの事実誤認又は審理不尽の違法はない。